大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所函館支部 昭和29年(ラ)3号 決定

抗告人 田中ヨシ

訴訟代理人 臼木豊寿

主文

原決定を取消す。

本件を函館地方裁判所に差戻す。

理由

抗告人は、原決定を取消し更に適当な裁判を求めると申立て、その理由は、原審は昭和二十八年十二月十六日本件(一)の建物については工藤隆三に、(二)の土地については松田永策に夫々競落を許可する旨の決定をしたがその基本債権として貸金元金五十万円の外に、これに対する昭和二十八年三月二日より同年三月末日迄日歩二十三銭同年四月一日より完済迄日歩二十五銭の利息を認めている。そうだとすると、この利息総額は右競落許可決定の日迄に実に金三十五万七千五百円の巨額に達し、利息制限法所定の利率年一割による金額三万九千七百三十九円との差額三十一万七千七百六十一円は裁判上請求できないものを債権として計上している。この点のみでも既に右競落許可決定は違法である。加るに弁済により消滅した部分も債権として認めているのも不当たるを免れない。仮に債権額が原審認定のとおりとしても、その合計元利金は八十五万七千五百円でこれに優先して弁済を受ける債権が存在しないから右債権を完済するに足りる抵当物件の限度において競売を実行すべきである。しかるに本件抵当不動産中(一)の建物の競落価額は金八十八万二千二百四十円であるから十分本件債権を完済できるに拘らず、本件(二)の土地までも競売したのは違法であるというのである。

債権者函館土地建物株式会社が抗告人主張のような貸金元利金債権に基き、本件土地及び建物につき抵当権実行の申立を為し、昭和二十八年七月二十七日競売開始決定がなされ、同年十二月十六日競落許可決定の言渡のあつたことは函館地方裁判所昭和二十八年(ケ)第七一号不動産競売事件記録に徴し明かである。しかして右債権者が昭和二十四年九月三十日届出、受理を完了した貸金業者であり、その届出金利が貸付利率は担保のある場合は最高日歩四十銭、無担保の場合は最高五十銭となつていることは記録編綴の北海道財務局函館財務部長近藤公男の回答書により明瞭であるが、この金利は大蔵大臣に届出でて同大臣によつて認められたものとはいえ貸金業等の取締に関する法律第八条に基き認められたものでなく、金融金利において行政上の責任を有する大蔵大臣が示した貸金業者の貸付金利の最高限度の範囲内の金利であり、いわば行政的指導的見地から指示された金利であつて法定された金利ではないのである。換言すれば、貸金業者の貸付金の金利は全然法令に根拠をもたないものであつて法定利息に該当せず約定利息であると認めなければならないから利息制限法の適用を免れることはできない。この見地から論ずると本件の日歩二十三銭は年八割三分九厘五毛、日歩二十五銭の損害金は年九割一分二厘五毛に該当し、利息制限法の利率を遥かに上廻る高利率になるが、右認定の如く債権者は貸金業者であるから本件貸付はその営業のためになされた行為として商行為と認められるので、損害金については利息制限法第五条の適用を排除するも、貸付日たる昭和二十八年三月二日より同年三月末日迄の期間中の利息中年一割を超過する部分は裁判上無効のものと謂うべく、この無効部分についても競落決定を与えたのは失当といわねばならない。弁済により消滅した部分も債権額に計上してあるとの主張については、これを認めるに足る証拠はないが、本件抵当権のように同一の債権の担保として建物と土地の如く数個の不動産上に抵当権を有する場合に或る不動産の売得金を以て各債権者に弁済をなし費用を償うに足るときは、他の不動産については競落を許さないのは民事訴訟法第六百七十五条の規定するところであり、本件債権者の主張する債権額を全面的に是認しても、本件(一)の建物の競落代金のみにより優に弁済するに十分であることは前示競売事件の記録により確認し得るから、その余の土地については競落することは許されない。

原決定はこの点においても失当たるを免れないから適当な裁判をするため主文のとおり決定する。

(裁判長判事 原和雄 判事 山崎益男 判事 小野沢龍雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例